昨今、高齢化と共に動脈硬化性疾患は増加傾向にあり、それに伴って大動脈疾患(大動脈瘤、大動脈解離、解離性大動脈瘤、閉塞性動脈硬化症など)も増加しております。これらの大動脈瘤に対する治療は開胸、開腹手術、いわゆるOpen Surgeryが主体でありました。
1991年アルゼンチンのParodi先生が世界に先駆けてステントグラフトによる大動脈内挿術(以下,EVAR)を発表されました。 ステントグラフトはステントと人工血管を組み合わせたもので、以来欧米を中心に様々な企業性のステントグラフトが発売され、ステントグラフトを用いた治療が胸部大動脈瘤、 腹部大動脈瘤、腸骨動脈瘤などを中心に行われ、EVARの件数がOpen Surgeryを凌駕する状況にあります。
本邦においても、2007年デバイス企業性ステントグラフトが上市されて以降、海外同様にEVARが増加しております。
当院では2011年4月に心臓血管外科に西巻博医師が赴任して以来,着実に症例数が増加しております(図1)。 現在、本邦では日本ステントグラフト実施管理委員会が実施医および指導医の認定制度を作り、治療の安全化を行っております。当センターには腹部大動脈瘤ならびに胸部大動脈瘤に対する指導医・実施医が数多く在籍し(ページ下部表)、正確で安全な、患者中心の治療を日夜行っております。
最近では,通常のEVARのみでは治療困難なより高度な病変に対しては、Open SurgeryとEVARを組み合わせて行うHybrid SurgeryやEVARに加えてより高度な血管内治療、Interventional Radiology(IVR)のテクニックを駆使したAdvanced EVARも行い、従来かなり侵襲性の高かった治療が、低侵襲で同等の治療効果が得られるようになってきております。とくに解離性大動脈瘤の治療の進歩にはめざましく、当センターでは最新で高度の治療を安全に行っております。
図1:当院におけるステントグラフト治療症例数の年次推移
胸部 | |
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指導医 | 西巻 博 |
千葉 清 | |
小川 普久 |
腹部 | |
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指導医 | 西巻 博 |
千葉 清 | |
小川 普久 | |
実施医 | 駒ヶ嶺 正英 |
体にやさしい大動脈瘤の治療法として注目されているのがステントグラフト内挿術です。
「ステントグラフト」とは金属製のバネの付いた人工血管のことで、細く折りたたむことが可能です。
これをカテーテルと呼ばれるストロー状の管の中に入れ、太ももの付け根から動脈瘤の部分に移動させます。
血管の中でステントグラフトが広がることにより大動脈瘤には血液が流れなくなり、大動脈瘤が破れるのを予防できます。
この治療法は太ももの付け根に小さな傷を入れるだけなので、局所麻酔で行うことも可能です。
全身への負担が少なく、高齢者や多くの持病がある方に適した方法と言えます。
しかし、誰に対しても行えるというわけではなく、動脈瘤の位置や太さ、血管の曲がり具合によりステントグラフト内挿術ができない場合もありますので専門の医師とよく相談して行うことが大切です。